未来のかけらを探して

一章・ウォンテッド・オブ・ジュエル
―11話・生きている宝物―



黄緑がかった羽の持ち主は、とても優しい笑顔を持っていた。
思い出せば、今でも優しい気持ちになれる人物である。
「お兄ちゃんはね、とってもやさしいんだ……。
名前はね、ピーレって言うの。」
「一字違いなのね。」
ミルザは、干した果物を食べる手を休めてそう言った。 
彼女は兄弟が居ないらしく、何となくうらやましそうな顔をしている。
「うん。」
顔も知らない父と母が、兄弟だからと似た名前をプーレに付けた。
そう兄から聞いていたのだ。
この際、家族のことを全部話してしまおうか。
そう思ったプーレは、少しずつ話を続ける事にした。


プーレの兄・ピーレは、4歳と7ヶ月の若いチョコボである。
人間に直すと大体16から18の間で、次の誕生日が来ると初の繁殖期を迎える。
父と母の代わりに年の離れた弟を育てているだけあり、
群れの同年代のオスよりしっかりしていると評判だ。
反面、喧嘩になると相手が折れるまで絶対に折れないほどの粘着気質でもある。
こんな風に少々大人気ない面もあるが、そんなことはプーレは気にしていなかった。
遊んでくれて、時には叱ってくれる兄が、親の居ないプーレには全てに等しかったからだ。
それほど大きな存在である兄が、あの日突然消えた。




山に囲まれた小さな森。ここは、通称ファブールのチョコボの森。
正式名称をレオナートの森という。
昔ファブールに来た、ある暗黒騎士の名から取られたと人間好きのチョコボが教えてくれた。
ここのところずっと天気がぐずついていて、
木の実や野菜をとるのも億劫だったが、今日は久しぶりに太陽が顔を覗かせている。
木陰に差し込む朝日のまぶしさでプーレは目が覚めた。
ひな特有のやわらかい黄色の羽が、持ち主の動きにあわせて揺れる。
「(ん〜……。あ、今日は晴れてる!)」
こんな朝は何日ぶりだろう。今日はいい事があるかもしれない。
羽を軽く繕ってからふと横を見ると、寝藁の上に兄が居なかった。
早起きしてエサを調達しに行くのは珍しい事ではない。
プーレは特に気にせず、おとなしく巣の周りで待つ事にした。
ところが、待てど暮らせど兄はいっこうに戻ってくる気配がない。
我慢強いと大人によくほめられるプーレだが、
さすがにいつも30分で戻ってくるところを1時間半も待たされたのでは痺れも切らす。
もしかして、恐ろしい肉食モンスターの餌食になってしまったのだろうか。
ありえない話ではない。人間が想像する以上に野性の生活は厳しくて、
群れの仲間が突然天敵に襲われてしまう事なんて珍しくないのだ。
さーっと顔から血の気が引いたのが、見た目では分からなくとも自分には分かった。
でもまだ決まったわけではない。
もしかしたら、途中で他に用事が出来たのかもしれないのだ。
もう少し大人だったら、そんな可能性は低いと否定しただろうが、
まだ幼いプーレは小さな可能性でも潰そうとはしなかった。
「となりのおばさん、知ってるかな?」
きっぷが良い、チョコボにしてはとても豪快で「男らしい」隣人の下に、プーレは駆けていった。
すぐ隣なのだから慌てて走る必要はないのだが。
「おばさーん!」
「おや、プーレちゃんじゃないかい!兄ちゃんはどうしたんだ?」
プーレの様子が尋常ではないと感じたのだろう、
おばさんチョコボは心配そうに尋ねた。
「それがね、お兄ちゃんまだ帰ってきてないの。
ねえ、おばさんは見なかった?」
「いやね〜……ごめん、見てないよ。
あたしは今、子供と水を飲んできたところだから。」
「そっかー……ありがとう、おばさん。他の人にも聞いてくる!」
ぱさぱさと尾羽を揺らして、プーレは他の大人たちに聞きに行った。
ところが、行った姿を見たものはいても、誰も戻ってくる兄を見たものはいなかった。
最初は心配した仲間が一緒に探してくれたが、
やがて2日が過ぎ、一週間が過ぎ、2週間が過ぎた。
その間に1羽あきらめ、2羽あきらめ。
一ヶ月たつと、探すのを手伝ってくれるチョコボは誰もいなくなってしまった。
それでも。
―お兄ちゃんが、死ぬわけない。
どうしてかは分からないが、プーレはただそう思った。
だから、ある日決断した。森を出て兄を探しに行こうと。
今でも無謀だったとは考えてもいない。
チョコボ用の足に付ける爪と好物のギサールの野菜を、
人間が落としていった袋一杯に詰め込んでプーレは旅立った。
大好きな兄を探すために。




いつの間にか兄がいなくなった日のことに話がそれていた事に、
話し終わるまでプーレは気づいていなかった。
勢いというやつだろうか。
「そっか〜……大変だったね、プーレ。」
涙もろいらしく、エルンが目をウルウルさせている。
一方パササは、男の子だからということは種族的に関係ないが、別にウルウルしていない。
「そういえば、お父さんとお母さんは病気で死んじゃったの?」
パササが、無遠慮な質問を投げかけた。
あまりに無神経な気がして、一瞬ロビンはひやりとする。
「それがね、モンスターにおそわれたんだって。
さっき話した近所のおばさんに教えてもらうまで知らなかったんだけど。」
プーレは、仲間には意外なほど普通の調子で話した。
特に内心でひやりとしていたロビンは、
肩透かしを食らった気分になる。
「そっかー……じゃあ、かなしいのぉ?」
よっぽどプーレの両親は運が悪かったんだなと思いながら、
エルンはプーレに聞いてみる。
「ん〜……全然。だって、生まれてすぐだったから。
覚えてないよ、そんなちっちゃい時なんて。
ときどき、どんなチョコボだったのかなとか、会えたらいいのになって思うけど。」
「(そんな小さい時に、一度に両親をなくしたのか……。
覚えている分、君のお兄さんの痛みは計り知れないものになっただろうね。)」
くろっちは飛び方を覚えた頃に、
人間に捕まって売られたから見たわけではないが、
卵が孵る前に片親が死んでしまうケースがあったと聞いた事がある。
教えてくれた同族の友人曰く、その上に手が離れたばかりの子供がいて、
その子も残された方の親も、ひどく落ち込んでしまったという。
「うん、そうかも。ぼくは全然分からないからそうでもないけど、
お兄ちゃんはときどきすごく落ちこんでたかも……。」
心配して聞いてみても、その時彼は「何でもない」としか言わなかった。
だが今にして思えば両親を思い出していたのだろう。
プーレが知らない両親の事を思い出して、兄は一体何を思っていたのか。
「プーレも全然ついてないネ〜……。」
「ん、そうだね。でも、グリモーには負けると思うけど。」
命の重さや肉親の価値を一律で比べることなど出来はしない。
だが、グリモーが過去に失った者の数を考えれば、
プーレはまだ自分は幸せなんじゃないかと思っている。
「あー……あいつは、な。」
それにはロビンも同意だ。
戦や魔物の襲来で親兄弟をなくす子供は多いが、
グリモーほど悲惨な例は幸い少ない方だ。
「その子、どうかしたんですか?」
「いや火事でな、親兄弟どころか村中の人間までなくしたらしいんだ。
おれも、よくはしらねえけど。」
軽く嘘を交えてロビンは説明した。
グリモーは人間ではないから、住んでいたのは村ではない。
だが、一時的な付き合いで終わるであろうこの少女に真実を話しても、
混乱させるだけで意味が無いだろう。
「そうなんですか……かわいそう。」
ミルザが痛ましそうに顔を伏せた。
なんて優しい子なのだろう。
この慈悲の心があるのなら、きっといい白魔道士になれるに違いない。
「ま、家族の話はこれくらいにしておくか。」
これ以上無駄な話を続けるのも良いが、
さすがに家族の話題はちょっとデリケートだ。
プーレだって、他人の両親の話を聞いて平気でいられるかどうかは保証の限りではない。
さすがにこのあたりで打ち切るべきかと、ロビンは判断したのだ。
「ねー、ロビンは家族いるんでしょー?」
そんな彼の気を知ってか知らずか、今度はロビンの方に話が飛んだ。
「ちゃんと両方いるノー?」
「だぁっ、どうでもいいだろそんなこと!」
人の気もしらねーで!と、後半部分を胸中で叫ぶ。
が、それだけでパササとエルンが引っ込むわけもなく、
しばらくの間は教える教えないの押し問答が続いた。


“騒いでるな……。”
共同の荷物袋の中でルビーがぼやく。
前は首にかけられていたが、首飾りの癖に重過ぎることと、
目立ちすぎるというロビンの判断で放り込まれたのだ。
もっとも、例え袋の中でも外は確認できるからかまわないのだが。
“こんなに賑やかなのも久しぶりだな〜。”
自分たちを細工した職人が営んでいた工房を思い出して、
エメラルドが楽しそうに言った。
あの頃は、毎日師匠と弟子のやり取りがにぎやかに行われていたものだ。
“私たちが会ったのもひさしぶりじゃなくて?
まぁ、スピードを少し上げましょうか。”
六宝珠たちはこっそり囁きあって、軍船並みのスピードに速度を上げた。



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プーレ兄、やっと話に出ました。忘れられた感もありましたが……(お
まぁ、そのついでに当初は無かった性格も少々増えました。
彼本人の登場は……いつになるやら。計画性がないなりにありますが、まだ内緒です。
何となくキリが良いので、今回は短めになりました。
ちなみにお気づきでしょうが、題名は銀の風の方がシリアス風、
未来のかけらはギャグ風と命名のときに最近は決めています。